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【詳細レポート】立命館先進研究アカデミー(RARA)第1回シンポジウム開催報告 「地球危機」をどう見るか──。RARAフェローと東京大学の本郷和人教授が徹底議論 

2024 / 02 / 26

2024 / 02 / 26

RARA主催の第1回シンポジウムを2024年1月25日に開催しました。シンポジウムはZoom中継で広く一般公開。視聴者からは質問や感想が多数寄せられ、熱い議論が繰り広げられました。以下、詳細をレポートします。

 

立命館大学では「次世代研究大学」の実現を目指し、未来社会に新たな価値をもたらすべく、さらなる研究高度化を牽引する組織としてRARAを設立。先進的な研究に取り組む「RARAフェロー」を任命し、研究活動と成果発信を進めています。

第1回シンポジウムのテーマは「地球危機の時代に、どう挑むべきか──異分野をつなぐ『総合知』を目指して」。​​東京大学史料編纂所の本郷和人教授をゲストに迎え、RARAフェローと、私たちを取り巻くさまざまな「危機」について意見を交わしました。

 

(左から、中川フェロー、小川フェロー、仲谷学長、本郷教授、岡田フェロー)

 

総合司会は理工学部教授の岡田志麻フェローが務めました。

 

 

RARAが「知の結節点」となり、知の連携が広がるきっかけに

 

冒頭、仲谷学長が挨拶。立命館大学のチャレンジについてこのように述べました。

「これから迎える時代はどのようになるのか? これまでとは全く異なる劇的な変化が思いもよらないところから起こる時代、これまでとは質的に異なる変化が起こる予測困難な時代。立命館は未来社会のあるべき姿を描き、その実現に向けて『挑戦』を続けることこそが重要だと考えました」

RARAについては「本学の最先端研究を牽引する中核研究者の集まり」とし、「総長としては、RARAで活動する研究者に思う存分研究に没頭してもらいたい、そのためにも、研究者が望む研究環境整備に対して関係各所と調整を重ねながら全力で支援していきたいと考えています」と語りました。

 

 

シンポジウムの開会にあたり、仲谷学長はこのように期待を述べました。

「今回、本郷和人先生をお招きし、RARAフェローとともに、古代から中世〜現代までの時間軸で、歴史学・文化人類学・地質学・考古学などの研究領域を超えて、私たちを取り巻く『危機』について意見交換をしていただきます。本日の議論をきっかけとして、諸課題への洞察が深まり、RARAが『知の結節点』となって、知の連携がさらに広がるきっかけとなることに期待しております」

 

 

「実はのんびりしていて、ぬるい」現代日本人の生きづらさとは

 

シンポジウム第1部は本郷教授と、先端総合学術研究科教授の小川さやかフェローが「現代人の『生きづらさ』の本質とは」と題して公開対談。

 

 

人類学者である小川フェローからの「今という時代をどのように見ているか」という問いに対して、本郷教授は歴史学的見地からこのように語りました。

「2000年もの日本の歴史の中で、現代という時代を明治維新以降と捉えています。日本人が世界の一員であると意識して生きていくようになって150年。日本人って、本来はのんびりしているし、ぬるいんです。中国や周囲の国と付き合いのない時期、例えば平安時代や江戸時代はのんびりしていて、ぬるい時代と言えます。明治維新以降、諸外国が良くも悪くも様々な影響、外圧を与えてくるようになり、日本人はのんびりしてはいられなくなりました。ある意味『生きづらさ』に結びついているのではないかと思います」

さらに「ゆるい時代というのは一方で、戦国時代などは自分の命を奪われても誰も責めるわけにはいかない自己責任の時代なんです」と続けました。

 

 

アフリカ研究を専門としている小川フェローは共感。「アフリカの人たちは生き抜くことが至上命題で、命にこだわりがあるんです。むしろ、いまの日本人が悩んでいることを話すと、『そんなことに悩むより、まずは生きていくことを考えよう』と言われます」と話しました。不安定な環境にあるアフリカ諸都市の生活は小さな危機の連続であり、日々の生活を回したり、窮地を切り抜けたりしようとすることで気力が生まれ、小さな窮地を切り抜けるという経験を積み重ねることで、これからもやっていけるという自信を持てるのではと指摘しました。

 

 

「致命傷になる前に逃げる」SNSとの向き合い方

 

現代人の生きづらさの象徴として、インターネットやSNSとの向き合い方も焦点に。「顔が出ていないのをいいことにSNSで悪口を言ったり、人の足を引っ張ったり。すごく嫌な思いをしたことがありますが、やっと最近、気にしなくていいやと思えるようになりました」と本郷教授。

「身もふたもないことを言うと、人間、意地悪なことをするって楽しいんですよね。インターネットの世界しかなかったら苦しんでしまいますが、実際は致命傷になる前に逃げることができると思うのです。いつでも逃げたらいいのです」と小川フェロー。

小川フェローはこのように続けました。「調査対象者であるタンザニアの人たちは、過去の経験が未来に生かせないような変転しやすい環境で生きているので、失敗してもさほど後悔せず、次なる挑戦をします。ただ、過去を振り返らないというのは一見幸せそうですが、常に高揚した気持ちを維持し、次こそはと賭けて、賭けてと挑戦を続けるというのはそれはそれで大変でもあります」。

「走り続けることを大変だと思うか、明日に向けて走っていくバイタリティを高く評価すべきか。悩ましいですね」と本郷教授。

 

 

「多様性」が社会を面白くし、便利で楽にする

 

「多様性」もキーワードに。本郷教授は平安時代に源氏物語や枕草子が誕生したことを挙げて、このように語りました。「男性は『唐物』と言われる中国の文化を愛好する傾向にありましたが、女性の活躍で女性ならではの文化が花開きました。そして男女の文化が混ざり合い、中国の文化に負けない、日本独自の文化を築くことができました。自由になっているようで、流動性が失われつつある現代ですが、やはり多様性がある社会の方が面白いですね」

 

 

小川フェローは「今の日本の社会では多様性は受け入れるべき道徳規範のように捉えられていますが、多様性って本当は自身が楽に生きていく秘訣なんですよね」と話します。「多様な人びとを受け入れておけば、主流の人びとの考え方が行き詰まった時に、そう考えない人たちが活躍できるかもしれません。多様性がある方が面白いし、いざとなった時にみんなで生き延びる可能性も高まります」。

次々と起こる技術革新、紛争、震災、気候変動、環境問題、情報洪水。その中で私たちが生きづらさを克服するには──。危機への対応策を小川フェローが尋ねると、「やはり危機に立ち向かうにはリベラルアーツ(一般教養)として、知識や教養が重要だと思っています」と本郷教授。

小川フェローは「いまのこの混沌とした時代は、いろんなものをぶち壊すチャンスでもあると思うんです。『危機の時代だから』と言い訳をしながら、好きなことをやってもいいと思います。逆に危機の時代だからこそ、ちょっと休憩するという選択肢もあると思います。みなさん、いったん休憩しませんか」と投げかけました。

本郷教授も「この閉塞感に立ち向かうために、ぶち壊す、休憩するって確かに大事なことですね」と共感し、第一部は幕を閉じました。

 

 

激動の地球環境を生き抜いてきた人類

 

第二部は地質学者で総合科学技術研究機構教授の中川毅フェローが加わり、「歴史から学ぶ──この地球的危機に人類はどう立ち向かうべきか?」と題したパネルディスカッションを展開。小川フェローがモデレーターを務めました。

『人類と気候の10万年史』(講談社、2017年)などの著書があり、気候変動の歴史の復元に取り組む中川フェローは、「地球危機についてどう考えていますか」という問いに対し、このように語りました。

「いろんな説がありますが、ホモ・サピエンスが地球上に登場してから20万年から 30万年くらいと言われています。地質学者の視点で振り返ると、この間は激動の時代と言えます。ありとあらゆる災害が日常的に起きて、海面が100m以上下がったり、九州が埋め尽くされるような規模の火山噴火が起こったり、数年で気温が10度上がったり下がったり……。そんな中を生き抜いてきたのが人類なんです」。

さらに中川フェローは続けます。「ここ1万年強は例外的に変化が少ない状況が続いてきて、最近の200〜300年は気候や環境が特に安定している時代でした。安定した時代の中、人間が成熟した社会や複雑な役割分担を作ってきたのが、このたった200年なんです」。

 

 

その上で「学説も、価値観も実はすごく変わっているんです」と指摘しました。

「気候は変動するという認識を人間が手に入れたのは100年前のことで、最近の数十万年は氷河期だったとわかったのは70年代のことです。当時は氷河期が来る、寒冷化だ、なんとかして地球を暖かく保たなければいけないという議論を本気で行っていました。また、当時は緑の革命の前で、人類社会の諸悪の根源は人口爆発だと言われていました。しかしその数十年後の現在では『寒冷化ではなく温暖化こそが大問題だ』、『人口爆発じゃなく、少子化こそが大問題だ』となっているんです」

本郷教授は「歴史研究者も資料を使って実証的な研究を行っていますが、例えば貴族の日記も実際のところ、都合の悪い事実が書いてあるかどうかはわかりません。エビデンス至上主義ではなく、柔軟に捉えないといけませんね」と首肯しました。

「学説に裏切られる経験は多いですね。また、現在の世界の認識や価値観に照らして『これを研究するべきだ』とか、『こういう活動をするべきだ』という方向づけがされることに対して懐疑的なマインドを育んできました」と中川フェロー。危機とされている事象を冷静に捉える姿勢が重要だと訴えました。

 

 

果たして「危機」と言えるのか。人間本来のバイタリティを取り戻そう

 

その後、中川フェローが取り組む、福井県の三方五湖最大の「水月湖」の堆積物の分析から過去7万年の気候変動を明らかにする研究について、10年刻みで徹底的に分析する理由が焦点になりました。

「今より海面が100メートル低い時代から生き抜いてきた日本人。数千年、数万年かけて徐々に進行する危機なら時間をかけて対応できますが、やはり人間にとって切実な『危機』とは、数日、数年、長くて数十年ぐらいで起こる急激な変化なのだと思います。ようやく地質学的証拠からも、そのようなタイムスパンで過去の姿が見えるようになってきました」(中川フェロー)

「数万年、数千年単位ではなく、人間の生きている数十年という時間のスケールで気候変動が明らかになってくるということは、私たち人文社会科学と地質学の人たちが全く同じスケール、同じ地平で話ができるということなんですね」と小川フェロー。

そういった前提を踏まえ、中川フェローは「いま、危機と呼ばれているもののほとんどが実はノスタルジーの問題に過ぎないと思います」と指摘。「例えば100年後も米を食べていたいとか、そういった話なんですね。温暖化したらバナナが主食になる時代も来るかもしれませんが、果たしてそれは本当に危機と言えるか。3世代後にはおそらくバナナを懐かしく感じる日本人が生まれているかもしれません」。

 

 

本郷教授も食の事例を挙げます。「日本の食は味噌と醤油の味だと言われますが、実は醤油の歴史は結構短くて、鎌倉時代にできたものです。当時は庶民には出回っておらず、庶民の口に味噌と醤油が入ったのは戦国時代。それまでは塩で味を整えていましたね。日本の長い歴史からすれば、すごく短い伝統と言えるのかもしれません」。

小川フェローは「人間が環境の変化に対応し、新たな生活スタイルや食文化を長い時間かけて作り上げていくことができれば、それは危機ではないのかもしれませんね。一方で、震災や、突然気候が暴れて起きる災害、あるいは戦争や紛争の勃発など、突発的な危機にどうやって立ち向かうか。危機の種類を分けて考えた方がいいですね」と投げかけました。

 

 

バイタリティを取り戻し、ボトムアップで乗り越えよ

 

「重要な指摘です。大きな気候変動や、何月何日にここで地震が起きるから備えよといった予知は不可能です。事前の想定や対策に頼る価値観からは脱却しなければ」と中川フェロー。

「例えば東日本大震災やリーマンショック、戦争、地震、ブレグジット、コロナ、いずれも直前までほとんどの人が思っていなかったことばかりです。未来を予測して粛々と準備できるわけではない、何が役に立つかわからないという前提で新たな価値観を作っていかないと、本当の意味での危機には立ち向かえないのかなと思います」と続けました。

「何が起こっても、とにかく楽しく生き延びる。人間本来が持っているバイタリティを、我々は取り戻さないといけないのかもしれないですね」と本郷教授。

 

 

本郷教授は日本人がこれまで経験した大きな変化として、

(1) 663年の白村江の戦いの敗戦、
(2) 鉄砲とキリスト教の伝来、
(3) ペリーの来航

を挙げました。こういった外圧や変化に対して、日本人がいかに変化を乗り越えたかという観点では、「(1)と(2)に対応したのは社会のエリートですが、(3)を経て、多くの方の関わりによって明治維新が実現しました」と指摘しました。

さらに本郷教授は「これからの外圧や危機に対しても、我々一般の人間が中心になって乗り越えていきたいですよね」と呼びかけた。トップに信頼して任せるだけでなく、ボトムアップで議論が起きて自分たちで乗り越えられるよう、我々日本人は十分成熟していますから」。

 

 

タンザニア人がコロナ禍で組合を解散した理由

 

小川フェローは、コロナ禍で貿易が止まったタンザニア人に、どうやって生き延びたかを尋ねたというエピソードを披露しました。「彼らには組合があるので、日本人のように組合同士で助け合っていたのではと思いましたが、実際は逆で、コロナ禍が始まった瞬間に組合は解散したそうです。『みんなにとっての危機の時に全員で一致団結し同じ方向を向いて動いて、もし失敗したらどうするんだ』と。『これからどうなっていくかわからないので、全員散り散りになって別々の方法を試せば、誰か一人くらいは生き延びられる。その人にみんながついていく』。そういう発想なんですね」。

 

 

本郷教授、中川フェローは「すごいですね。その発想はなかった」と驚き、予測できない危機に対しては一体何が役に立つのかわからないという前提から、団結力で生き延びられる時もあれば、うまくいかない時は解散するという選択肢もあるのだと盛り上がりました。

本郷教授は「学際研究は本当に面白いですね。他の分野の研究者の方の話にすごく興味が湧きましたし、社会にとっても有益だと感じました」とシンポジウムを振り返りました。

 

 

「楽しむ力」は自分次第

 

オンライン配信には60件以上の質問やコメントが寄せられ、インタラクティブなQ&Aセッションが行われました。

視聴者からは「情報との付き合い方」や「少子高齢化の進む日本で、各世代ができることとは」などの質問が寄せられました。

「今の時代の日本は本当に生きづらいのか」という問いに対して、本郷教授はこのように回答。「歴史上、食べ物や生活は十分良くなり、ゲームなども充実し、昔の貴族の生活よりも絶対に楽しくなっていると思います。一方で、立ちはだかる壁も新しく生まれてきています。物理的には進化してきましたが、それを『楽しむ力』は昔の人と今を生きる人、どちらが上かはわからない。内面的に生きづらさを作り出すのも自分、克服していくのも自分と言えるかもしれません」。視聴者からは共感のコメントが相次ぎました。

他にも「分野の異なるプロが語り合うと議論の視点が広がって面白い」「自由に学び、自由に挑戦し、なにが起きてもなんとかなる、そんな社会であれば挑戦しやすいと思いました」「大変有意義な時間でした」といったコメントが寄せられ、Q&Aセッションも大いに盛り上がりました。

 

 

学問や大学の存在を変えていく──次世代研究大学とは

 

最後に、司会の岡田フェローが投げかけた「次世代研究大学とは?」との問いに対する登壇者の回答をご紹介します。

「伝統的な学問においては、専攻分野が狭ければ狭いほどいいと言われてきました。深い穴を掘りなさいと。立命館大学には、次世代研究大学としてそれをもう根底からぶち壊す、そういう存在になっていただきたい。広く学ぶということがいかに大切かということを社会に示していただけることを期待しています」(本郷教授)

「今日繰り返し、多少意図的に、何が役に立つかわからないという話を強調してきました。『ここが勝ち目がありそう』とか、『次にこれが役に立ちそう』と決めつけてしまうと物事は面白くなくなるものです。私は『想定と対策』も嫌いですし、『選択と集中』も嫌いです。次世代研究大学として、この2つの『対極』に進んでいきたいと思っています」(中川教授)

「私は、次世代研究大学をつくっていくのは多くの人たちの力だと思います。若者たちはYouTubeなどで動画を倍速再生しますが、90分という大学の授業時間が本当に適切なのかといったことから考えてもいいのでは。例えば、チャンネルを変えるように10 分ごとに好きな教室に行けるなど……。大学をもっと社会に開き、今までの常識をどれだけ変えることができるか、そういったことがこれからの面白いシステムを作っていけると思います。世界はどんどん進展し、人々の好き嫌いも変化します。根本から発想を変えて、今の制度や大学という存在そのものを変えていくことを、ぜひみんなで一緒に取り組んでいきたいと思っています」(小川フェロー)

 

 

 

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本シンポジウムの対談・パネルディスカッションの模様はこちらからもご覧いただけます。

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