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RARA Newsletter vol.24(転載)新材料を武器に、産業界・行政・アカデミアをつなぐ「Nodes(結合点)」に。半導体応用研究センター長・金子健太郎RARAフェローが語る、フロンティアの拓き方

2026 / 05 / 21

2026 / 05 / 21

RARA Newsletter vol.24

新材料を武器に、産業界・行政・アカデミアをつなぐ「Nodes(結合点)」に。半導体応用研究センター長・金子健太郎RARAフェローが語る、フロンティアの拓き方

 

 

(2026年5月に登録者にメールでお届けしたNewsletterを転載したものです。Newsletterへの配信登録はこちらから

 

若草の季節となりました。みなさまにおかれましてはお健やかにお過ごしのことと存じます。

 

「次世代研究大学」を掲げる立命館大学では、さらなる研究高度化を牽引する制度として2021年にRARAを設立。大学の中核を担う研究者たちを「RARAフェロー」に認定し、世界水準の研究推進と次世代人材の育成に取り組んでいます。

 

今回のNewsletterでは、立命館大学 半導体応用研究センター(RISA)のセンター長を務めるRARAフェロー・金子健太郎教授のインタビューをお届けします。

 

 

「まだ誰も手をつけていない材料」を掘り起こし、企業の課題に応え続ける新材料研究者

 

金子健太郎フェローは、2013年に京都大学大学院工学研究科で博士号を取得後、同大学院で助教・講師を経て、2022年7月より立命館大学総合科学技術研究機構教授に着任。2023年にRARAフェローに就任し、2024年には半導体応用研究センター(RISA)を設立、センター長に就任しました。

 

研究者の傍らスタートアップを複数設立した経験をもち、現在は複数の大企業と、それぞれ違った研究テーマで共同研究を推進しています。

 

その研究業績は国内外から高く評価されており、第23回船井学術賞をはじめ26の賞を受賞。また、米国スタンフォード大学とエルゼビア社が発表する「世界のトップ2%の科学者」(単年区分)に直近3年連続選出されました。

 

また金子フェローの研究室は、世界最大級の半導体産業展示会・会議「SEMICON Japan」に出展する研究室を対象としたアカデミアAward 2024の最終審査(全国8研究室)に、立命館大学として初進出、優秀賞を受賞しました。

 

さらに半導体実装技術に関する国際会議 IEEE CPMT Symposium Japan(ICSJ)では、2023年から3年連続で立命館大学朱雀キャンパスが会場に選ばれ、金子フェローが現地実行委員長を務めました。2025年には史上最多となる354名の参加者を記録しました。

 

ICSJ2024で現地実行委員長を務めた金子フェロー(右から3人目)

 

金子フェローの研究の軸は一貫して、新しい半導体材料の開拓です。水素生成・燃料電池・光学メタマテリアル・深紫外固体発光素子と、手がける材料は多岐にわたりますが、いずれも社会課題や企業課題を起点にしています。

 

産業界の最前線と向き合い、誰もまだ手をつけていない材料へと次々と踏み込んでいく、その研究スタイルと実績が、国内外から高い注目を集めています。

 

(以下、金子フェローの話からライターが構成しました)

 

 

原点は「現場が本当に困っていること」新材料を続々開拓

 

私の研究の軸は、酸化物を中心とした新しい半導体材料の開拓です。半導体の歴史を振り返ると、革新的なデバイスは多くの場合、新しい材料の発見・開拓によってもたらされてきました。研究トレンドやセオリーにとらわれず、「変な材料」を見つけ出し、その可能性を引き出していくことをライフワークにしています。

 

どの材料をどんな課題に応用するか、その具体的な方向性を決めるきっかけになることが多いのが、企業との対話です。水素生成については、立命館大学に着任後に企業からご相談をいただいたことで本格的に取り組み始めました。燃料電池については前職の京都大学在籍時に企業からご依頼をいただきました。

 

光学メタマテリアルの研究も、企業からの相談を受けて着手したものです。当初は別の酸化物材料で開発を進めていましたが、研究を深める中でより優れた特性を持つ材料が見つかり、酸化鉄と酸化ガリウムの積層構造へと発展しました。

 

こうして、企業からもたらされる社会課題や企業課題に向き合いながら複数のテーマを並行して進め、一つの研究が社会実装に近づいた段階で次のテーマへと移っていく循環が生まれています。研究の原点は常に「現場が本当に困っていること」。それが、新たなフロンティアへと踏み出し続ける原動力でもあります。

 

 

 

「世界初の高効率メタマテリアル」乾燥工程を革新する積層薄膜

 

現在取り組んでいるテーマの一つが、三菱重工業(MHIイノベーション推進研究所)との共同研究で生まれた光学メタマテリアルです。メタマテリアルとは、自然界には存在しない光学特性を人工的に実現した構造体のことで、特定の波長の光だけを選択的に通したり反射したりする制御が可能です。

 

塗装や電池部材の製造工程では、製品を乾燥させる際に大量のエネルギーが消費されます。赤外線ヒーターから発せられる光の多くは、実際の乾燥には役立つことなく無駄になっています。水や有機溶媒が吸収する特定の波長の光だけを照射し、それ以外の光はランプに戻して熱源の再加熱に利用できれば、乾燥工程のエネルギー効率を大幅に改善できます。

 

この課題に対して、酸化鉄(α-Fe₂O₃)と酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)をミルフィーユ状に積層した6層構造の薄膜を開発しました。屈折率の差を活かし、水が吸収する3μm帯の光だけを透過させ、それ以外の波長は反射して再利用するという制御を実現したものです。

 

この技術により、乾燥効率は従来比2〜3倍に向上し、乾燥コストは半分から3分の1程度まで低減できます。数年内の社会実装を目指し、現在も積層の最適化など技術的な課題の解決に取り組んでいます。

 

 

企業との共同研究では当初、企業側が選定した材料では社会実装が難しいと判断し、議論になったこともあります。最終的には私が提案した材料の方向で進めることになりましたが、依頼を受けて「こなす」のではなく、課題の本質から共に考えるパートナーであることが、産学連携の醍醐味だと思っています。

 

 

水銀規制という社会課題に、新材料で応える

 

もう一つの柱が、岩崎電気株式会社と東北大学秩父重英教授と共同で取り組んでいる水銀を用いる紫外線光源の代替技術開発です。殺菌・滅菌や半導体製造の表面処理などでは、水銀を用いた紫外線光源が長く利用されてきました。しかし、2017年に発効した「水銀に関する水俣条約」を背景に、水銀使用の低減や代替技術への関心が国際的に高まる中、上下水道の殺菌や半導体の表面処理など、水銀を用いた紫外線光源に依存してきた工程では、代替技術の確保が重要な課題となっています。

 

私たちが着目したのは、酸化マグネシウムと酸化亜鉛の混晶(MgZnO)という材料です。水銀灯が発する185ナノメートルという非常に短い波長の紫外線は、これまで半導体では発光させることができないほどエネルギーが高い領域でした。それをMgZnOという材料で実現できる可能性について京都大学在籍時より取り組んでいます。

 

MgZnOは、ベビーパウダーの成分である酸化亜鉛(ZnO)と、便秘薬にも使われる酸化マグネシウム(MgO)からなる材料です。これまでのような毒性の高い水銀ではなく、安全な材料でつくられた半導体という点でも、社会的な意義は大きいと考えています。

 

現状では発光強度の向上が課題であり、社会実装には5年から10年程度を見込んでいます。本事業は蛍光灯や殺菌ランプなどに広く用いられてきた水銀の代替材料として、将来必要になるものですので、現時点でも大きな反響をいただいています。

 

 

燃料電池の「コスト」という壁を、新材料で突破する

 

水素社会の実現に向けた取り組みとして、燃料電池用セパレータの低コスト化にも取り組んでいます。固体高分子形燃料電池(PEFC=Polymer Electrolyte Fuel Cell)とは、水素と酸素を反応させて電気を生み出す装置で、燃料電池車や家庭用エネファームなどに使われています。

 

その内部構造において、電極間でガスや電流を分離・通過させるセパレータは、システム全体のコストの約30%、重量の約70%を占める重要部品です。現在のトヨタMIRAIに使われているチタン+金・プラチナのセパレータは非常に高価であり、燃料電池車の普及を阻む大きな要因の一つになっています。

 

 

私たちは、安価なステンレスに酸化スズ(SnO₂)を被膜するという手法で、導電性・耐食性・低コストという三つの要件を同時に満たすセパレータの開発に挑んでいます。

 

成膜には「ミストCVD法」と呼ばれる手法を用いています。材料を霧状にして基板上に吹きつけ、化学反応で薄膜を形成するこの手法は、従来の高真空装置が不要で低コストかつ大面積への対応が可能という特長があります。

 

2025年4月には岩崎電気株式会社・アイテック株式会社との共同研究として「ミストCVD法による新しいグリーン水素生成技術の実証成功」をプレスリリースし、2025年度NEDOの「水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業」にも採択されました。

 

現在普及している水素の多くは、石炭や天然ガスを化学処理して取り出す際に大量のCO₂を排出する「グレー水素」です。真の意味でカーボンフリーを実現するには、再生可能エネルギーや原子力を使った水の電気分解(水電解)によって製造する「グリーン水素」への転換が不可欠です。この分野でのコスト低減を通じて、水素社会の実現に貢献していきたいと考えています。

 

 

 

2度の起業が教えてくれた「産業界の肌感覚」

 

私はこれまでに、研究室の研究成果をもとに京都大学と立命館大学在籍時にディープテックのスタートアップ2社の創業を行ってきました。ただ、あくまで研究の主軸は大学での研究活動と考えているため、会社に対しては常に一定の距離を置いてきました。

 

私は、この2社が取り組んでいる材料や応用先以外に、新しく開拓したい材料や応用先が山ほどあります。研究者として常に次の新材料の研究へと移る。それが私のスタイルです。これは、私の恩師であり大学院そして教員時代のボスである藤田静雄教授(現在は名誉教授)の影響を受けています。藤田先生は大変多くの御業績を残されていますが、研究人生の各段階で、研究テーマをガラッと大きく変え、それぞれのテーマで世界に影響力のある業績を残されています。

 

研究者人生の各段階でテーマを大きく変える重要性を学びましたので、立命館大学着任後に始めた研究テーマが多いです。

 

一方で、スタートアップを通じて産業界と深く関わったからこそ、企業が本当に困っていることが肌感覚でわかる。そのリアリティが、研究テーマを選ぶ際の嗅覚につながっています。

 

あくまで大学研究者としての活動を行ってきましたが、その中で起業に関わる事が出来たのは、研究者として貴重な経験だったと思います。

 

 

「下が岩だった」経験も糧。ファーストペンギンであることの意味

 

私は常に「まだ誰も手をつけていない材料」を先行して手がけることを信条にしています。群れの中から最初に海へ飛び込む「ファーストペンギン」でありたいです。

 

しかし先行するほどリスクは大きく、反応は薄いものである事を学んできました。京都大学大学院生時代に、藤田教授ご指導の下に取り組んだ酸化ガリウムの研究では、学会で発表しても「何に使う材料か分からない」という空気で、聴衆が会場から出ていってしまうような反応でした。そんな逆風の中で研究を続けた結果、酸化ガリウムは世界標準の材料になり、前述の学会セッションでは酸化ガリウムの発表が大半を占めるようになりました。

 

研究者の世界は、ごく少数のトップランナー・ファーストペンギンと多数のフォロワーで構成されていると感じています。多くの研究者は、すでにある程度価値が証明されているテーマを選びます。2番手以降は安全だからです。

 

しかし、資金力の大きい国が追いかけてくれば、2番手では必ず追い越されてしまいます。日本の研究者が生き残るためには、誰もまだ手をつけていない真のフロンティアを先行して開拓し続けることが重要なのです。

 

私自身、実は元々理系科目が得意でなかったことが、キャリアにとってむしろよかったと振り返ることがあります。もし理数系科目が得意であれば、先が見えてしまってリスクを取らなかったかもしれないです。

 

飛び込んでみたら下は海ではなく岩だった、ということもよくありましたが、「よくわからないけれど、とにかくやるしかない」という姿勢で突き進んできたことが、結果的にフロンティアを開拓し続けることにつながったのだと思っています。

 

 

 

研究を政策に盛り込む。行政・産業界との連携が変えるもの

 

半導体応用研究センター長として、私が最も力を入れているのが行政との連携です。一般的な産学官連携といえば、大学・企業・行政のトップが一堂に会して「協力しましょう」と合意するものが多い。

 

しかし私の場合は、行政機関の現場に自ら足を運び、担当者と直接対話しながら、現場が何を本当に求めているのかを自分の目で確かめることを重視しています。

 

たとえば、滋賀県の産業立地促進条例案の制定に、私たちの研究センターの活動が一定の貢献をすることができました。また、京都府や三重県の産業振興にもかかわっていますが、実際に現地を訪れ、人口動態や道路インフラの現状など、府や県が抱える課題や将来への不安を現地で直接伺い現実的な提言を行うようにしています。

 

なぜ行政との連携を重視するかというと、研究の成果が社会に「届く」ためには、法制度や政策の枠組みが不可欠だからです。どれだけ優れた技術を生み出しても、それを受け入れる社会インフラや政策的な後押しがなければ普及しません。

 

研究と政策の両輪がそろって初めて、社会実装は現実になります。半導体は特にその傾向が強い分野で、国家の意向が産業の方向性を大きく左右します。研究者が政策の議論に積極的に関わることは、もはや私たちの義務だと考えています。

 

センターが主導してきた国際会議ICSJは、立命館大学朱雀キャンパスでの開催となった2023年以降、参加者数が約1.5〜2倍に増加し、2025年には史上最多となる354名を記録しました。近畿経済産業局が主導する近畿地域の半導体コンソーシアム構築においても、中心メンバーとして携わっています。

 

 

 

RARAが生み出す学際的連携

 

立命館大学に着任する際、副学長から「一輪挿しになってはいけない」と言われました。外部から招聘された研究者として、学内で孤立してしまわないようにとのメッセージだと思いました。

 

私は総合科学技術研究機構に所属しているため、通常は学部の先生方との接点はほとんどありません。そこで半導体応用研究センター設立の際、学部横断的な連携を意識的に設計に組み込みました。現在センターには幅広い専門性を持った理工学部、経営学部、生命科学部、食マネジメント学部、立命館グローバル・イノベーション研究機構、OIC総合研究機構、総合科学技術研究機構から22名の先生方が参加しています。そして5名の先生方が学外から参加されています。

 

多様な分野の先生方との交流の中から、新たな発想が生まれることがあります。食マネジメント学部の先生との対話から、半導体センサーで人間の味覚を数値化するという応用の可能性が見えてきたことも、その一例です。RARAという制度の強みは、まさにこうした学際的なつながりを生み出す点にあると思います。

 

RARAはフェロー同士が学問の領域を越えてつながり合う「Nodes(結合点)」を志向する制度です。立命館大学という総合大学の多様性を活かして、半導体技術の応用領域を広げるプラットフォームとして、センターの活動を発展させていきたいと考えています。

 

台湾の国立陽明交通大学やTSMCとの半導体人材育成に関する交流も進めています。立命館大学の半導体応用研究センターが、国内外の産業・行政・アカデミアをつなぐ拠点として広く認知されていくことが、今後の大きな目標です。

 

 

 

常に10年後を見据えて──次のフロンティアへ

 

新たに注力し始めているテーマがあります。「光電融合」です。現在の半導体は電気信号で動作しますが、高性能化に伴い発熱が深刻な問題になっています。電気の代わりに光で信号を伝送することで、発熱を抑えながら高速通信を実現しようという技術で、NTTが推進する「IOWN(アイオン)構想」、光を中心とした次世代通信・情報処理インフラの構想とも方向性を同じくするものです。

 

東京大学や九州大学、TSMCも注目している領域の一つであり、大学でもまだ取り組む研究者が少ない、まさに最前線のテーマです。

 

半導体産業は「一寸先は闇」といえるほど変化が激しい分野です。10年前に半導体産業の覇者であった企業が現在は苦境に立たされているように、常に最新の動向を把握し、10年後・20年後を見据えて先手を打ち続けることが研究者としての責務だと考えています。「刻舟求剣(こくしゅうきゅうけん)」は半導体業界を端的に表す教訓だと思います。楚の国の人が長江を船で渡る際、動いている船から剣を落としたので船に印をつけた。岸に着いてから印を頼りに剣を探したという寓話から生まれた、時代や状況の変化に気づかず、古く融通の利かないやり方や考え方に固執する愚かさを表す故事成語ですが、この話を笑う事が出来ない事象が半導体業界には多々あります。時代は常に進み、世の中の事情や必要とされる技術・分野・材料も常に変化しています。いつまでも船の印にしがみついている事例は驚くほど多いです。

 

研究者として未来を見据えながら、企業が将来必要となる材料を開発し、誰もまだいない場所へと歩みを進める。ファーストペンギン、先導者としてのサイクルを回し続けることが、私の研究者としての戦略であり、矜持でもあります。

 

 

博士号は「選択肢を広げるカード」。若手研究者へのメッセージ

 

現在ほど博士課程に進学することの金銭的リスクが低い時代はありません。多くの大学や研究機関が博士課程学生に生活費を支給する制度を整えており、以前に比べて経済的な不安を少なく、研究に専念できる環境が整っています。

 

博士号を、研究者にしかなれない「閉じた道」として捉えないでほしいと思います。博士号は選択肢を広げるためのカードです。博士号を持ちながら国家公務員になっても、企業の経営者になっても、スタートアップを立ち上げても構いません。

 

グローバルに活躍することを視野に入れるなら、博士号を持っていないことは研究者として致命的なハンデになります。かつてのイメージにとらわれず、「自分の可能性を広げるための投資」として前向きに考えてほしいと思います。

 

挑戦をしている限り、失敗するのは当たり前です。不採択になったり、論文がリジェクトされたりしても、逃げずにそこから学んで次に進む。そして、いつか社会に役立つ研究をしていってほしいと思います。

 

 

 

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