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RARA Newsletter vol.21(転載)「動いている電池の中」を捉え、電池研究の常識を変える。オペランド測定と全固体電池の可能性──折笠有基RARAフェローの挑戦
2026 / 01 / 06
2026 / 01 / 06
RARA Newsletter vol.21
「動いている電池の中」を捉え、電池研究の常識を変える。 オペランド測定と全固体電池の可能性── 折笠有基RARAフェローの挑戦
(2025年12月に登録者にメールでお届けしたNewsletterを転載したものです。Newsletterへの配信登録はこちらから)
今年も残すところあとわずかとなりました。
「次世代研究大学」を掲げる立命館大学では、さらなる研究高度化を牽引する制度として2021年にRARAを設立。大学の中核を担う研究者たちを「RARAフェロー」に、RARAフェローへのステップアップに向けて実績を積み重ねる研究者たちを「RARAアソシエイトフェロー」に任命し、研究活動と成果発信を進めています。
動作中の電池を観察「オペランド測定」という革新
今回のNewsletterでは、RARAフェローの折笠有基・

折笠フェローが取り組むのは、電池や燃料電池が「
兵庫県にある世界最高クラスの放射光施設「SPring-8」
全固体電池に新たな可能性──「橋」の発見が意味するもの
2025年10月、
全固体電池は、
ところが折笠フェローの研究チームは、
この発見は、
折笠フェローの研究の原動力、
(以下、折笠フェローの話からライターが構成しました)
電池の進化と全固体電池への期待
私たちの生活に欠かせない電池は、長い進化の歴史を経て現在の形になっています。電池研究の歴史を振り返ると、1800年のボルタ電池の発明にはじまり、1991年にソニーが世界に先駆けてリチウムイオン電池を商用化したことで、携帯電話やノートPC、デジタルカメラなど小型電子機器の急速な普及が進みました。
その後、電池はモバイル機器にとどまらず、電動工具やロボット、電気自動車、再生可能エネルギーの蓄電、大規模な非常用電源やグリッド用途へと適用範囲を広げるなかで、大型化・高エネルギー密度化が進んでいます。
電池の歴史とアプリケーション
電池の基本的な仕組みを説明しましょう。電池は、プラス極とマイナス極の間をリチウムイオンが行き来することで充電と放電を繰り返します。このイオンの移動を助けるのが電解質です。現在主流のリチウムイオン電池では、液体の電解質が使われています。この液体電解質の中をリチウムイオンが移動することで、電気エネルギーが取り出せるのです。
しかし、液体電解質には課題があります。可燃性の有機溶媒を使用しているため、電池が破損したり過熱したりすると発火する危険性があるのです。最近、電気自動車やスマートフォンの発火事故がニュースになることがありますが、これは液体電解質に起因する問題です。
さらに、先ほど説明したように、電池を動かしているときに電解液の濃度が変化してしまうという問題もあります。濃度が変わると抵抗が変わったり、不均一な反応が起きたりして、電池の性能や安全性に影響を及ぼします。

リチウムイオン電池の反応
そこで注目されているのが全固体電池です。全固体電池は、この液体電解質を固体に置き換えた電池です。固体電解質は燃えにくく、液漏れの心配もありません。また、電解質の濃度が変化しないという大きなメリットもあります。
実は、リチウムイオン電池の性能が頭打ちになることは10年以上前から分かっていました。材料は1991年の実用化以来ほとんど変わっておらず、性能向上は主に材料を高密度に詰め込む技術によるものです。しかし、詰め込めば詰め込むほど発火リスクが高まります。根本的な問題を解決するには、次世代電池の開発が必要なのです。
次世代電池の候補は様々あります。リチウム金属電池、ナトリウム電池、カルシウムやマグネシウムを使った電池、フッ化物イオンを動かす電池、空気を使った電池など、世界中で10年以上にわたって研究開発が続けられています。

各種二次電池のエネルギー密度
その中でも全固体電池が特に注目されているのは、材料がリチウムイオン電池とほぼ同じで電解質だけが異なるため、化学反応として進みやすいという利点があるからです。他の電池系は新しい化学反応が多く反応速度が遅いのに対し、全固体電池は伸びしろは限定的ですが、燃えにくい、濃度が変化しないといったメリットがあり、特に自動車用途で期待されています。

リチウムイオン電池と全固体電池の違い
ただし、全固体電池はまだ確立された技術がなく、本当に実用化できるかどうかは分かっていません。だからこそ、電池が実際に動いている状態を直接観察する「オペランド測定」という手法が重要になるのです。
「泳ぐ魚」を観察する? オペランド測定とは
従来の電池研究では、使用後の電池を解体して調べる方法が主流でした。これは魚で言うと干物を見ているようなものです。
オペランド測定は、電池を動かしながら観察する手法です。魚で言えば、泳いでいる状態を直接見るということです。実際に動いているところを見ることで、今までわからなかったことがわかるようになり、それを電池の設計に生かせます。
干物は動かないし、見やすいですよね。でも生きているものは動いているから大変です。わざわざ動いている電池を観察するのは大変ですが、今までわからなかったことが見えてきています。

SPring-8での挑戦──膨大なデータの取得や解析が可能に
私たちは兵庫県の播磨科学公園都市にある「SPring-8」という世界最高クラスの放射光施設を使って実験を行っています。
世界で今、SPring-8と同規模の放射光施設は三つしかなく、その中でもSPring-8は最も強いエネルギーのX線が出ます。入学時点で「SPring-8を使った実験をしたい」と言って入ってくる学生もいますね。
実験室ではピンボケしていた像が、SPring-8では非常にクリアに撮れます。しかもオペランド測定で電池を解体せずに撮ることができます。また、実験室の10倍ほど速くデータを取得することができ、膨大なデータが取れます。
ただし、装置を持参の上実験をするため、準備がかなり大変です。電池は水に弱いため、実験室では水分を除去したグローブボックスを使い、それを200キロ離れた施設に持っていくのです。電池を作って現地に持って行く際も、ちゃんと動くか保証がないので、いつも不安を抱えながら向かっていますね。
1回失敗すると、次の実験まで2〜3ヶ月待つことになります。準備に時間をかけ、確実にデータを取ることが重要です。学生と一緒に準備し、当日も協力して行います。時間的にも精神的にもかなり大変です。
解析の苦労もあります。膨大なデータから重要な情報を抽出するのは大変で、学生と一緒に時間をかけて取り組んでいます。
最近はAIがかなり使えるようになりました。ある程度の作業はAIがやってくれるようになり、学生がそこからデータを抽出できるようになっています。
例えばX線CTで撮った組織の像が三つの要素で構成されているとします。人間の目だと識別できますが、何千枚という写真を人間が見分けるのは時間的に無理があります。最初は人間がデータを作りますが、AIに学習させると、あとはAIが何千枚の画像を識別する作業をしてくれます。これで膨大なデータを使った解析が可能になりました。
環境問題を解決できるエネルギーデバイスを目指して
私が電池研究に進んだきっかけは、環境問題を解決できるエネルギーデバイスを手がけたかったからです。
研究背景には、エネルギー利用の拡大と深刻化する環境問題があります。産業革命以降のエネルギー多消費型の発展により、CO₂排出量は増加の一途をたどり、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と結論づけています。
こうした状況を受けて、国際的にカーボンニュートラルに向けた転換が進められています。私は電池や燃料電池、水素技術などのエネルギーデバイス研究を通じて、この大きな流れに科学的な側面から貢献することを目指しています。

エネルギー白書2021(資源エネルギー庁)より
今のような電池の中を見る研究に至ったのは、巡り合わせで自分の得意分野がそこにあったからです。このテーマについて研究している人が少ない中、私は時間をかけて研究を続けてきたため、今に至っています。
電池の中身がわかると、発火や劣化のメカニズムもイメージできます。研究内容が日常生活と密接に関わっているため、それが研究の原動力になっていますね。
日本のシェアは低下の一途。全固体電池という選択肢
日本の民生用リチウムイオン電池の世界シェアは、商用化直後の2000年には93%を占めていたものの、2005年には72%、2016年には43%まで低下しており、材料やコストでの競争が激化。次の電池を見つけないと日本の電池産業は衰退すると言われてきました。
こうした産業構造の変化も、次世代電池の必要性を後押ししています。次世代電池が大事だという認識は広がっていますが、それが何なのかは明確な答えは出ていません。
「橋」の発見が全固体電池にもたらした、新たな可能性
2025年10月に『ACS Nano』に掲載された研究は、今年3月に卒業した大学院生が中心に行ったものです。
オペランド測定で全固体電池を高分解能で観察し、解析をしっかり行いました。大学院生が自分でまとめ、他の先生方にも協力いただきました。
シリコンはリチウムイオンを多く吸収できる魅力的な材料ですが、充電で膨張し、放電で収縮します。リチウムイオン電池では、収縮時にできた穴で電解液が反応し、劣化が進みます。そのためシリコンだけを使うのは難しいとされています。
全固体電池でも当初は同じ問題があると考えられていました。固体電解質は変形すると元に戻らないため、シリコンが収縮すると穴が開き、リチウムイオンの供給が止まるはずでした。液体電解質なら動いて埋められますが、固体では動かず、供給できなくなります。理屈上そうだとみんな思っていました。
ところが、新しい発見が二つありました。一つは、シリコンは完全に孤立せず、固体電解質との「橋」のようなものがちょっと残るということです。
シリコンは膨張・収縮して穴が開きますが、何回やっても固体電解質の一部が電極表面に引っ付き、接点を持ち続けるのです。このように橋が残っているので、リチウムイオンは動き続けます。
3年ぐらい前から兆候を捉えていました。当時の学生が「橋がある」と見つけ、綺麗な像を撮って途中状態まで観察し、何回も実験して再現性を確認しました。

固体電解質とシリコン負極に「橋」がかかっていることをオペランド測定で捉えた様子
X線CTで実像を見るのは重要です。多くの研究は分光という方法で線グラフだけで議論しますが、実際の画像なら中身が直接わかりやすく、一般向けにも説明しやすいのです。画像なら「確かにシリコン負極と固体電解質が繋がっていますね」とわかります。全固体電池でここまで綺麗に見たことはなく、もっとぼやけた映像しかありませんでした。昔はスキャン精度がそこまで良くなかったのです。
もう一つの発見は、充放電を繰り返しても液体より劣化が抑えられ、その点においては全固体の方が優れています。形状が何回やっても綺麗に残ります。橋の部分はあまり変わりません。亀裂は出ますが、橋はいつも同じところにでき、よく動きます。
これで、全固体電池ではシリコンが使えないとされていたところから一歩抜け出せました。まだ問題はありますが、大きな欠点とされていたことが実はそうでもなかったのです。
開発はそういうものです。一つクリアしたらドーンと躍進するということはなく、少しずつ改良、改善、発見が積み重なって前に進みます。リチウムイオン電池もそうでした。
今回はオペランド測定で発見できたことが大きいです。オペランド測定なら同じ対象物で変化の時間軸を観察し続けられます。事後分析だと異なる状態を並べて推測するだけで、結果が曖昧になります。
実は最初はシリコンに穴が開くのを見て、やはりシリコンはダメだという証明をするつもりでした。でもよく見ると動き続けているとわかり、そこに特化して進められたことが発見につながりました。
研究は失敗が基本。想定外を歓迎せよ
研究は基本的に失敗が多く、思い通りにいきません。その中で可能性を上げるため、思考実験を行います。実験前に「どういう結果を得たいか」をかなり考え、うまくいかないことも想定して整理してから研究を進めます。そうすると発見が出てきます。
将来の発見の種は、対話の中で見つかることが多いです。今回のようなインタビューや、企業の方との話で違った観点を得て、自分の研究にリンクさせて新しい研究のポイントを見つけます。
意図的にやることもありますが、自然にやっていることもあり、そのセレンディピティを重要視しています。私1人でできるとは思っていません。普段考えていない想定外の発見があるといいと思っています。
今回の発見も、2代前の学生が「やりたい」と始めました。「シリコンではダメだというデータが取れる」と進めていたら、新しいことが見つかりました。
基本的に私は、方法論だけを指導し、実際の実験は学生に自由にやらせます。情報をうまく抽出できないときはデータを見て「こういうことが必要だよね」と指導しますが、結構な確率で学生が自ら新しい現象を見出してくれます。そういう機会を増やすよう心がけています。
研究に集中できる環境で、嬉しい悲鳴──RARAフェローとして
RARAフェロー制度を活用し、研究時間がかなり増えました。特に学生と一緒に考え、ディスカッションする時間が増えました。私たち自身もどんな結果が出るかわからない研究をやっているので、学生と一緒に頑張ることが大事です。そういう時間を多く作れる制度設計をしてもらったことに感謝しています。
「この解析をやりたい」「ここがわかっていない」と学生が困っているときに、一緒に考えて「こうしたらいいよね」と前に進めやすくなりました。非常にありがたいです。
RARAでいろんな研究ができるようになり、様々な依頼が入ってきて、現在リチウムイオン電池、全固体電池、燃料電池、水素の領域で国家的なプロジェクトに関わっています。かなり忙しく、受託研究も大きくなっています。嬉しい悲鳴ですね。引き続き、この環境を大いに使わせていただこうと思います。
エネルギーデバイス研究で社会に貢献したい
私の研究がカーボンニュートラルに直接繋がるわけではありません。材料が見つかり「なぜこうなるのか」を考える過程で、初めて私たちの研究が使われます。新しい技術が出てきたときにサポートするのが我々の役割です。
動作中の状態を理解することで、正しく動かせるか研究します。新しい材料が思った通りになっているか判断でき、なっていなければ早く方向転換できるので、研究開発のスピードが上がります。
今やろうとしているのは、産業界と協力し、材料開発と評価解析をしっかり進めていくことです。本当に開発に役立つことは何かを含めて、アカデミアとして貢献していきたいです。
エネルギー、電池、燃料電池で、実用とアカデミアの架け橋として貢献していきたい。私の専門は電気化学なので、その専門性と計測技術を活用して発展させていき、この先も面白い研究ができればと思っています。
知的な議論を楽しむ場として、アカデミアの魅力を取り戻す
今、日本では理系の博士課程に進む学生が少なく、アカデミアに残る人が減っています。次世代の担い手がいなくなることを危惧し、この状況を変えたいと思っています。大学が就職予備校のようになっている日本は世界的に見て特異的で、早く就職したいという意識が強いようです。
「Philosophy(哲学)」という言葉は、古代ギリシャ語の「愛」を意味する philo と、「知恵」を意味する sophia に由来し、「知恵を愛すること」という意味を持ちます。また、「学校」を表す英語 school の語源である scholē は、もともと「余暇」や「休息の時間」を示し、自由な時間を使って思索や討論を行うことが価値とされていた文化から生まれた言葉です。
博士号 Ph.D.(Doctor of Philosophy)は、こうした哲学的な伝統に連なる「世界的なアカデミアのパスポート」として位置づけられます。純粋な好奇心にもとづく知的探究や議論の楽しさこそがアカデミアの原点であり、「役に立つかどうか」だけでは測れない純粋な発見の喜びを学生にも味わってほしいのです。
アカデミア・大学はギリシャでは議論を楽しむ場でした。研究や、知的な議論を楽しむ場にしていきたい。将来役に立つかどうかではなく、「橋を発見できたのはすごい」と思うだけでいい。そういう発見の喜びや面白さを感じてほしい。
AI時代に人間の仕事がなくなるのではないかという話もあります。学び、研究し、発見するアカデミア自体を純粋に楽しむことが、これからは本当に大事になると思います。役に立つ、立たないという議論をあまり気にしないで研究に集中できる場所がアカデミア。私はたまたま産業に近い研究をしていますが、そこを気にしないでできる舞台こそが大学だと思います。
最近のシンポジウムは形式的で、互いが議論することが少なく、学生を集めて本気で議論しなさいと言ってもなかなかできません。新しいシンポジウムの形も模索していき、そういった土壌を自然に取り戻していきたいですね。

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今後も様々な形でRARAやRARAフェロー・アソシエイトフェローの取り組みを発信していきます。
冬風の冷たさが身にしみる季節です。どうぞお体にお気をつけてお過ごしください。
それでは、
