田中 覚
RARAフェロー
3次元計測ビッグデータの超高精細可視化と
VR応用、多層性ビッグデータの統合的可視化
SCROLL
1982年早稲田大学理工学部卒業、1987年同大学大学大学院理工学研究科修了。理学博士。
福井大学を経て、2002年より立命館大学理工学部(2004年に情報理工学部に組織改編)教授(現職)。日本シミュレーション学会会長、可視化情報学会副会長等を歴任。
日本シミュレーション学会理事、日本工学会フェロー、日本学術会議連携会員、Eurographics会員。
多重/多層的なビッグデータで構成される世界を「見える化」する
RARAでの研究活動では以下の2つの研究テーマを設定しています。
第一に、 国内外のユネスコ世界文化遺産や国宝級の有形文化財を3次元計測し、デジタルアーカイブを構築することです。それらのアーカイブされたデータを活用し、現実の文化財を精密に再現し、また、精密解析を支援する可視化/VRを実現していきます。
一方で、単一のビッグデータを対処療法的に可視化するだけでは、得られる情報に限界があります。そこで、第二のテーマとして様々な分野の多重/多層的なビッグデータのセットを統合的に可視化することで総合知を得る新技術パラダイムの構築を目指します。
私は大学院で理論物理学を専攻し、とくに量子力学を深く学びました。量子力学は「我々の世界は多数の微小粒子で構成され、その粒子の振る舞いは確率論の数学で記述できる」ことを教えてくれます。一方、計算機科学で扱うビッグデータを理解するのに、量子力学と似た「粒子と確率を使った描像」が役に立つことがあります。3次元計測で取得される大規模点群データはその良い例です。これに気付いた瞬間の興奮が忘れられず、今回の研究に取り組むに至りました。
我々の世界を記述する多様な情報が、今、計算機で処理可能なビッグデータとして日々蓄積されつつあります。そのことは、自然科学、社会科学、人文科学などのあらゆる学問分野に共通しています。ビッグデータの活用は、まだ始まったばかりです。ビッグデータの処理には困難も伴います。しかし、ビッグデータが内包する従来とは次元が違う大量の情報を十分に利活用できれば、大きな技術革新が可能になります。本研究では、可視化をコア技術として、そのような技術革新を追求していきます。
RARAでの研究活動の前半期では、3次元計測ビッグデータの超高精細可視化と、それを活用したVR技術の構築を行います。現在行っている、インドネシアのボロブドゥール寺院(ユネスコ世界文化遺産)、奈良・當麻寺(国宝の西塔など)、徳島市立博物館の蜂須賀家甲冑など、歴史的・美術的価値の高い文化財を対象とします。後半期には、前半で開発した技術を様々な分野のビッグデータに活用して、多層性ビッグデータの可視化技術を開発することに繋げていきます。
可視化は人の思考能力を拡大させます。近年急速な発展を遂げつつあるビッグデータ可視化や深層学習などの技術は、可視化を日常における普通のシンキング・インフラとして活用する時代の到来を予感させます。本研究は、伝統的な紙とペンのように、近年ではWeb検索のように、我々が考え、決断し、行動するのに必須の支援手段としてのビッグデータ可視化を確立することを目指すものです。
―― パートナーシップについて
本プロジェクトでは、学際的研究・文理融合的研究を目指しています。大規模データの可視化に興味・関心のあるどのような分野の研究者ともコラボレーションしたいと考えています。ビッグデータ解析は、今やあらゆる研究分野で必要とされています。なぜならば、多くの分野で、伝統的なアナログデータに替わって、デジタルデータが研究の1次データとなることが増えているからです。そして可視化こそは、異なる分野の研究者が議論をする際の共通言語であると信じています。
―― 研究連携で大切にしていること
国や研究機関が異なれば、文化・手法・興味の対象は異なります。また、研究でも、理系分野では新しいモノ/コトの発見を重要視するのに対して、文系分野では知の再構築が重要であるなど、理系と文系では大きな違いがあります。ここに、学際研究や文理融合研究の難しさがあると思います。しかし、互いに学びあって、異なるものを統合できれば、必ず新たな創造に繋がるはずです。