後藤 基行
RARAアソシエイトフェロー
患者/当事者・市民の参画を通じた
ヘルスケア・アーカイブズのオープンデータ化と
MLA構想の推進
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2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所流動研究員、日本学術振興会特別研究員(PD・慶應義塾大学)等を経て、2020年4月立命館大学大学院先端総合学術研究科講師、2023年4月より同准教授および立命館大学生存学研究所副所長。
著書に「日本の精神科入院の歴史構造-社会防衛・治療・社会福祉」(東京大学出版会,2019年。社会政策学会奨励賞)。
医療・福祉・病気・障害に関わる一次資料アーカイブズを構築し、共生社会への道をひらく
私が取り組むプロジェクトでは、医療や福祉、病気や障害(ヘルスケア)をキーワードに、人々の命と健康、尊厳に関わる史資料を収集してアーカイブズを構築した上で、当事者や市民らと協働してガイドラインを策定してウェブ上で公開し、関連資料へのアクセシビリティを革新的に向上させます。また、本プロジェクトをR2030に掲げられた新MLA(Museum/Library/Archive)構想と接続し、史資料を公開・継承(アーカイブ)することで、これらを利用した研究の包括的な推進と共に、これまでもこれからも人々は病や障害と共に生きていくのだ、という共生社会構築に向けたメッセージをアーカイブズを媒介に伝えていきたいと思っています。
医療や福祉、病気や障害に関わる一次資料(ヘルスケア・アーカイブズ)は、人々の命と健康、尊厳に関わる情報でありながら、容易に捨てられたり、保存されていてもアクセスが困難で研究利用できないシーンにたびたび遭遇してきました。当事者らが生きたリアルな痕跡が刻印された史資料、あるいは医療や福祉政策に関わる資料、これらは後世に残されるべきものであるし、利活用される価値のあるものだと思ったことが、この研究テーマを選択した一番の理由です。
生存学研究所が所蔵する障害や病に関わる史資料の他、自分や協働する研究者らが収集してきた史資料を特にウェブを通じて社会に広く開いていく(公共化)ことで、研究や教育、市民に利活用してもらいその存在を伝えていくことができればと思います。
今後の研究のロードマップとして、生存学研究所が所蔵する一次資料に関する目録情報の作成をRARAアソシエイトフェローに就任してから最初の1年間半で達成したいと思います。同時に、収集済み・予定の各種関連資料の大規模なデジタル化を4年間は継続して行っていきます。また、著作権上の課題やセンシティブ情報を含む資料を公開していく上で必須となる資料利用ガイドラインを多様なステークホルダーと協働して策定し、まず生存学研究所の書庫にある資料を対象として運用を開始予定です。
プロジェクトの推進により立命館大学を中心に、医療や福祉、病気や障害に関わる資料の収集とデジタルデータ化作業のシステム化が進み、一定の制限をかけつつも大量のヘルスケア・アーカイブズへのアクセシビリティが革新的に向上するはずです。また、当事者らとの協働によるガイドライン策定によって、資料利用に際するルール運用の専門家独占を排し、当事者参画を進めることで資料の公共化と利活用につながると考えています。これまで閲覧が困難だったり、存在が知られていなかったヘルスケア関係資料に簡易にアクセスできるようになり、関心を持つ研究者や当事者の人たちに質の高い情報が提供されることになります。何よりも、治癒困難な病や障害を持つ人にとって自分たちの人生を重要と考える他者の存在が感じられるようになるのではと思っています。
―― パートナーシップについて
このプロジェクトは、医療や福祉、病気や障害に関わるヘルスケア・アーカイブズをもつ組織や団体、機関、個人との連携を強く模索しています。見慣れてしまっていて第三者にとって重要でないと感じられるものであっても、本プロジェクトの目標に賛同してくださる場合、一度私のところに連絡をくださると有難いです。プロジェクト関係者らとその収集可能性について検討して、ご希望を聞きつつ①資料の受け入れとデジタル化、②デジタル化して資料は返還、③受け入れ困難などの判断をお知らせいたします。特に、資料のデジタル化とそのデータの利活用の承諾を頂ければ、可能な限り予算はこちらで負担できるよう進めたいと思っています。
連絡先は mgoto(a)fc.ritsumei.ac.jp
*(a)部分は@に置き換えてください
―― 研究連携で大切にしていること
プロジェクトは限られた研究者だけを想定したものではないため、すでに収集している、していく医療や福祉、病気や障害に関わるヘルスケア・アーカイブズに関心のある人であれば、研究者を問わず誰でも歓迎です。策定予定のガイドラインに基づいて公開・非公開を検討することになりますが、研究者や学生はもちろんウェルカムですし、自身や家族が病気や障害を持つ方、マスコミ関係者、教育関係者など、何らかの問題意識をもつ方に広く利用してもらいたいです。
また、情報は多種多様なので一概には言えませんが、医療や福祉、病気や障害に関わるヘルスケア・アーカイブズは、人間の命と健康、尊厳に関わる情報であり、当事者らにとって重大で深刻な意味を持つことがあります。こうした情報について、リスペクトをもちつつ客観的に研究するという姿勢が大事だと思っています。