末近 浩太
RARAフェロー
中東・イスラーム研究の方法論的革新を通した
新たな地域研究の開発
SCROLL
立命館大学国際関係学部教授、中東・イスラーム研究センター(CMEIS)センター長。1997年横浜市立大学文理学部卒業、1998年ダラム大学中東・イスラーム研究センター修士課程修了(イギリス)、2004年京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科5年一貫制博士課程修了。博士(地域研究)。
オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ研究員(イギリス)、SOASロンドン中東研究所研究員(イギリス)を歴任。
なぜ独裁や紛争が続いてきたのか? 中東・イスラーム研究のアップグレードを通じて、異なる地域や文化に対するより深い理解と地球規模の共生社会の創生を目指す
紛争や独裁が続く中東。そのなかでも特に深刻な状況が続いてきた「歴史的シリア」の人びとが、「国家」をどのように捉えており、また、それはどのように変化してきたのか。現地語資料と現地調査を双柱とする質的研究に加え、世論調査データ、現地語テキストのビッグデータ、衛星画像データの量的研究を行います。そして、この作業を通して、目的論的(teleological)な学際性の拡張を特長とする、「地域研究2.0」の方法・手法の開発に取り組みます。
100年以上にもわたるパレスチナ問題やクルド問題、2003年のイラク戦争、2011年の「アラブの春」、そしてシリア内戦。紛争や独裁によって混乱が続く中東のなかでも、特にこれらの深刻な問題を抱えてきた「歴史的シリア(シリア、レバノン、 ヨルダン、パレスチナ/イスラエル、イラク)」に着目し、主に質的な手法を用いてその実態解明に取り組んできました。しかし、近年では世論調査結果や統計資料、インターネット上のデジタル化されたテキストといった量的データが入手できるようになってきたことを受け、その収集と分析手法を発展させることで、独裁や紛争のメカニズムをより実証的に研究することが可能となりました。
なぜ紛争や独裁が続いてきたのか?ーー新たなデータと手法によって、この問いにあらためて向き合いたいと考えています。
今後の目標として、新たな方法論を実装した次世代の地域研究の開発、そして、それを通したグローバル化時代の異なる地域間・異文化間の「より良い相互理解」の促進を目指します。また、そのために、RARAフェローとして中東・イスラーム研究のアップグレードに取り組み、次世代研究大学としての立命館大学に国際的な研究拠点を形成していきます。
目標実現に向けたロードマップにおいては、第一に、「歴史的シリア」の人びとの国家観を定量的な分析手法を用いて実証的に解明していきます。その成果は、国際学会での報告や国際誌への投稿、それから、日本語での論文集の刊行を通して、国内外に発信していきます。第二に、定性と定量の方法・手法を融合した新たな地域研究の方法論を体系化し、世界を構成する諸地域の固有性と共通性の両者の析出を可能とする「地域研究2.0」の開発を目指します。第三に、学内外の学部生、修士・博士課程大学院生、PD、教員を「巻き込む」かたちで、国際的な研究拠点の形成と次世代の地域研究者の養成に取り組みます。
地域研究のアップグレードは、学術的な波及効果のみならず、世界の地域や異文化、特に中東やイスラームに対する主観的な好悪を振りかざす言説(偏見や差別を含む)が目立つようになっている昨今の社会に対して、エビデンスベースの客観的で確かな知見を提供することが期待できます。地域をより良く理解することは、地球規模の共生社会の創生に向けての不可欠なステップとなります。
―― パートナーシップについて
国内外の中東・イスラーム研究者や研究機関、さらには隣接分野の各種プロジェクトと協働しながら、次世代の地域研究のあり方を模索していきます。
―― 研究連携で大切にしていること
グローバル化やICTの発展は、世界を構成する様々な地域や文化の間の距離を縮めましたが、それと同時に、あるいは、それゆえに、他の地域や文化に対する思い込み、偏見、決めつけも目立つようになっています。こうした課題を乗り越えるために、異なる地域や文化に対するより良い理解を目指す地域研究のアップグレードに共に取り組んで行きたいと思います。