北場 育子
RARAアソシエイトフェロー
マヤ文明衰退の謎に迫る:年縞に残された極端気象と人間活動の歴史
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2011年神戸大学大学院 理学研究科博士課程短縮修了。博士(理学)。
日本学術振興会特別研究員、神戸大学内海域環境教育研究センター助教を経て、2014年より立命館大学古気候学研究センター准教授。2018年同副センター長。
地質学の「精密な時計」から、古代マヤの極端気象を明らかにし、文明衰退の謎を解き明かす
マヤ文明は、中米で栄えた古代文明です。洗練された文字システムを持ち、暦や算術、天文学を高度に発達させました。しかし、その偉大な文明は、深刻な衰退を幾度となく経験しました。これは、人類史の謎の1つです。私は衰退の原因の候補として、頻発する極端気象に注目しています。特別な地層「年縞」を細かく分析することで、古代マヤ人が実際に経験した極端気象の記録を世界で初めて手に入れることを目指します。
子どものころに胸を躍らせた、知りたい!楽しい!ワクワク!の源泉がここにあることが、この研究を続ける理由です。足かけ3年、マヤの遺跡にある湖でついに年縞を発見した瞬間、この研究に人生をかけようと思いました。過去の歴史がギュッと詰まった美しい年縞には、そんな魔法のような力があるのです。
私たちの究極のゴールは、マヤ文明衰退の謎を解き明かすことです。これを実現するために、2つの柱を立てています。1つめは、マヤ地域に特化した地質学の「精密な時計」を作ること。2つめは、古代マヤ人が経験した干ばつや大雨など、極端気象のすべてを明らかにすることです。この記録を、マヤの正確な暦に裏打ちされた「歴史」と比べることで、気候変動や極端気象と文明衰退の因果関係に迫ります。
メキシコのサン・クラウディオ湖を掘削し、年縞を採取します。年縞は、1年に1枚積もる薄い地層で、その縞模様には「時間」と「雨の量」が刻み込まれています。まず、年縞をすべて数え上げ、年縞に含まれる葉っぱの放射性炭素年代測定をおこない、精密な時計を作ります。正確な年代のわかった年縞に含まれる元素を細かく調べることで、干ばつや大雨などがどの特定の年に起こったのか、詳細に明らかにしていきます。
この研究には、地球温暖化の時代に、高度に発達した文明社会を生きる私たちへのヒントが隠れています。どんな時に気候は暴れるのか(=極端気象が増えるのか)、どんな条件なら気候は穏やかでいられるのか。そして暴れる気候は、高度に進んだ文明にどんなダメージを与えるのか。過去の歴史をひも解くことで、現在の私たちが直面している危機の本質に迫ります。
―― パートナーシップについて
僻地での調査は、予想もできないようなハプニングの連続です。迫りくるピンチすらも楽しめる前向きな仲間とともに、大きな夢を見たいです。どれだけ時間と手間はかかっても、絶対に妥協をせずに最高のデータを追求し続けるという志を共有できるパートナーと、歴史に残る仕事をしていきたいです。
国内外の研究機関との連携においては、前向きであたたかな、笑顔あふれるチームを作ることを大切にしたいと思っています。空振り続きの年縞探しも、フィールド調査での大ピンチも、孤独で砂を噛むような細かい作業の繰り返しも、ユーモアさえあれば楽しみに変えることができます。チームのメンバーが心から笑っていれば、どんな困難も境界線も越えていけると信じています。
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